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マーケットタイミング(短期投資)はなぜ難しい? 長期投資が賢明な理由

マーケットタイミング(短期投資)はなぜ難しい? 長期投資が賢明な理由

マーケットタイマーは運頼み

投資の世界でよく耳にする「マーケットタイミング」とは、市場の値動きを予測して、株価が上がる前に買い、下がる前に売ることを目指す投資手法です。一見、魅力的に思えるこの戦略ですが、実際に成功するのは非常に難しく、運に大きく左右される側面があります。この記事では、マーケットタイミングの難しさと、なぜ長期投資がより賢明な選択肢なのかを、学術研究やデータをもとに解説します。

マーケットタイミングの魅力とその落とし穴

マーケットタイミングは、市場の転換点を見極め、適切なタイミングで売買することで利益を最大化しようとする戦略です。たとえば、株価が底値に近づいたときに買い、高値で売ることで大きなリターンを得られる可能性があります。しかし、この戦略にはいくつかの大きな問題があります。

1. 予想は「運」に頼る部分が大きい

マーケットタイミングの基本は、市場の将来の動きを予測することです。しかし、市場は経済指標、政治イベント、自然災害、投資家の心理など無数の要因に影響されます。これらを正確に予測することは、プロの投資家でもほぼ不可能です。
たとえば、2020年の新型コロナウイルスによる市場の急落は、事前に正確に予測できた投資家はほとんどいませんでした。市場の動きは複雑で、短期的な変動はランダムに近い性質を持っています。行動経済学の研究では、人間が不確実な状況下で合理的な予測を下すのは難しいとされています。ノーベル経済学賞受賞者のダニエル・カーネマンが提唱する「プロスペクト理論」によれば、投資家は利益を確定する際には慎重になり、損失を避けるためにリスクを取る傾向があります。この心理的なバイアスが、マーケットタイミングの成功をさらに難しくします。

2. いつか外れて損をする

マーケットタイミングを試みる投資家は、短期的な市場の動きに賭けることになります。しかし、たとえ数回成功したとしても、予測が外れたときの損失は大きい場合があります。たとえば、J.P.モルガン・アセット・マネジメントの記事では、マーケットタイミングを狙う投資家が市場の上昇期を逃すリスクが指摘されています。記事によれば、「1988年1月から2019年3月末投資した場合、保有を続けると資産は約22倍に成長した一方、投資タイミングを見誤って市場が大幅に上昇する前にいったん投資を終え、その後に再開するという行動をとった場合、たった3日間の大幅上昇日を逃しただけで約17倍にとどまったとあります。
https://am.jpmorgan.com/jp/ja/asset-management/per/investment-ideas/mv-t-eq-markettiming-201905/

タイミングを計るために市場から一時的に離れることが、大きな機会損失につながることを示しています。市場の「ベストな日」は事前に予測できず、逃したときの影響は長期的なリターンに深刻な打撃を与えます。
チャールズ・エリスの「敗者のゲーム」を読むと、このあたり詳しいです。

3. マーケットの転換点を読むことはほぼ不可能

市場の転換点、つまり「底値」や「天井」を正確に予測することは、理論的にも実際的にも非常に困難です。テクニカル分析やファンダメンタル分析を駆使しても、市場の動きは予測不可能な要素に左右されます。たとえば、日本テクニカルアナリスト協会の研究では、価格の転換点を特定するための新値更新の規則性を検証しましたが、明確な規則性を見出すことは難しく、売買タイミングの優位性を確立するにはさらなる検証が必要と結論づけています。

また、市場の転換点は事後的にしか明確にならないことが多いです。たとえば、2008年のリーマンショック後の底値は、2009年3月頃とされていますが、当時それが底値だと確信できた投資家はほとんどいませんでした。市場の動きはランダムウォーク(酔っぱらいの千鳥足)に近く、短期的な予測は非常に困難です。

4. 成功しているように見える人も、単なる確率の問題

マーケットタイミングで成功しているように見える投資家もいますが、これは単なる確率の問題である可能性が高いです。世界中で何百万人もの投資家がマーケットタイミングを試みれば、統計的に一部の人は運良く連続して成功する可能性があります。しかし、これはスキルではなく運によるもので、再現性はほとんどありません。
たとえば、投資の世界では「ランダムに選んだポートフォリオでも、一定期間は市場を上回るパフォーマンスを示すことがある」とされています。これは「生存者バイアス」と呼ばれる現象で、成功した投資家だけが注目され、失敗した多数の投資家は見過ごされる傾向にあります。学術研究でも、マーケットタイミングで長期的に市場を上回るリターンを得ることはほぼ不可能であると結論づけられています(後述の論文参照)。

5. 運に頼るマーケットタイミング vs. スキルに基づく長期投資

マーケットタイミングは運に大きく依存するのに対し、長期投資は企業の成長性や財務状況を分析するスキルに基づいています。企業の利益成長や競争力を評価することは、データと論理に基づく再現可能なプロセスです。たとえば、ウォーレン・バフェットのような長期投資家は、企業の本質的な価値を見極め、市場の短期的な変動を無視することで成功を収めています。
長期投資は、市場のノイズを乗り越え、経済全体の成長や企業の収益増加に賭ける戦略です。歴史的に、S&P500指数は年平均で約7~10%のリターンをもたらしてきました。短期的な変動はあっても、長期的に見れば市場は成長を続けます。このため、タイミングを計るよりも、時間を味方につける方が賢明です。
「Time not Timing」(タイミングではなく、時間をかける)が正解です。

学術研究が示すマーケットタイミングの限界

マーケットタイミングが運用成績を向上させないことは、多くの学術研究でも裏付けられています。以下に、具体的な研究や論文をいくつか紹介します。

1. バートン・マルキールの研究

プリンストン大学の経済学者バートン・マルキールは、著書『ウォール街のランダム・ウォーク』で、市場の動きはランダムウォークに近く、短期的な予測はほぼ不可能であると主張しています。彼の研究によれば、プロのファンドマネージャーの多くも、長期的に市場平均(インデックス)を上回るリターンを得られていません。マルキールは、マーケットタイミングを試みるよりも、低コストのインデックスファンドに投資する方が合理的な選択だと結論づけています。

2. ユージン・ファーマの効率的市場仮説

ノーベル経済学賞受賞者のユージン・ファーマが提唱する「効率的市場仮説(EMH)」は、市場価格にはすべての利用可能な情報がすでに反映されており、短期的な価格変動を予測することはできないとしています。この仮説に基づけば、マーケットタイミングは理論的に成功する可能性が低く、運に頼るしかない戦略です。ファーマの研究は、1960年代から現在に至るまで、投資理論の基礎として広く受け入れられています。

3. SPIVAレポート

S&Pダウ・ジョーンズ・インディシーズが発行する「SPIVA(S&P Indices Versus Active)レポート」は、アクティブ運用ファンドのパフォーマンスを市場インデックスと比較したデータを提供しています。2022年のレポートによると、アクティブ運用のファンドのうち、市場インデックス(S&P500など)を長期的に上回るものはわずか10~20%程度に過ぎません。マーケットタイミングを試みるアクティブファンドの多くが、インデックスに負ける理由は、タイミングの誤りや高い取引コストにあります。
本物のアクティブファンドも存在するは事実なのですが、一般の方に見分けるのはほぼ不可能です。
一つ参考にできることがあるとすれば、現金保有比率が高いアクティブファンド。
現金保有が多いということは、タイミングを計って買い向かおうとしている可能性があり、マーケットタイマーの運用手法をとっているかもしれません。

4. 行動経済学の視点

行動経済学の研究では、投資家の心理的バイアスがマーケットタイミングの失敗に大きく影響することが示されています。たとえば、ノムラアセットマネジメントのコラムでは、投資家が「相場が上昇している」という情報に反応して買いに入る傾向があると指摘しています。しかし、これは「高値で買う」行動につながり、結果的に損失を招く可能性が高いです。

長期投資のメリットと実践方法

マーケットタイミングの限界を理解した上で、長期投資のメリットを考えてみましょう。

1. 市場の成長を享受できる

歴史的に、株式市場は長期的に成長を続けてきました。たとえば、S&P500指数は1920年代から現在まで、インフレ調整後でも年平均約7%のリターンを生み出しています。短期的な変動は避けられませんが、長期的に見れば、経済の成長とともに資産も増加します。

2. 取引コストの削減

マーケットタイミングでは頻繁な売買が必要ですが、これには手数料や税金がかかります。SMBC日興証券の資料によると、株式取引の手数料は約定代金の1.265%(最低5,500円)にも及び、頻繁な取引はリターンを圧迫します。一方、長期投資では売買頻度が少なく、コストを抑えられます。

3. 心理的ストレスの軽減

マーケットタイミングは、市場の動きを常に監視する必要があり、精神的な負担が大きいです。長期投資では、企業の成長性に焦点を当て、短期的な変動を無視することで、ストレスを軽減できます。

実践方法:インデックス投資と分散

長期投資を始めるには、以下の方法が有効です。

・インデックスファンドへの投資:S&P500や全世界株式インデックスに連動する低コストの投資信託を選ぶ。
・分散投資:株式、債券、不動産など複数の資産クラスに投資し、リスクを分散する。
・定期的な積立投資:毎月一定額を投資することで、市場の変動を平均化する(ドルコスト平均法)。

インデックス投資を進めるわけではありませんが、優良なアクティブファンドを見つけるのは難しいため、プロのアドバイザーがいない場合は、無難な方法ではあります。
また米国株式のようにマーケットを絞るのではなく、世界株式に投資することがおすすめです。

結論:運に頼らず、株式市場の本質に長期投資する

マーケットタイミングは一見魅力的に見えますが、運に大きく依存し、長期的な成功は難しいことが学術研究やデータから明らかです。一方で、企業の成長性や経済全体のトレンドに着目した長期投資は、スキルに基づく再現可能な戦略です。投資はギャンブルではなく、論理とデータに基づく意思決定であるべきです。
あなたも、市場のノイズに惑わされず、長期的な視点で資産を育ててみませんか?
投資信託の定期積立を活用し、時間を味方につける投資を始めるのが、賢明な第一歩です。

参考文献
バートン・マルキール『ウォール街のランダム・ウォーク』
ユージン・ファーマ「効率的市場仮説」
S&Pダウ・ジョーンズ・インディシーズ「SPIVAレポート」
J.P.モルガン・アセット・マネジメント「タイミングをとるリスク」
ノムラアセットマネジメント「利益が出ている時の売りタイミング」
日本テクニカルアナリスト協会「テクニカルの特徴」